和泉守兼定について話せばいいのかな? それとも主のお孫さんのこと?
そう。和泉守は自分から刀解を願い出てね。そうだね、悲しかったけれど最期の頃にはひどく憔悴していたから。僕としてはあいつが楽になったのならこれでよかったのかもしれないと思っているよ。
いや、そう思いたいだけかな。
それで和泉守が刀解されるなら自分も、って堀川国広も一緒に。
うん、だから今この本丸には和泉守兼定と堀川国広はいないんだ。
堀川の次に和泉守と親しかったのは僕だから、たぶん今この本丸で一番このことに詳しいのは僕だと思う。和泉守に起こったことうまくまとめられるように頑張って話すね。
最初に覚えているのは一〇年、いやもうちょっと最近、六,七年くらい前だったかな。
遠征任務で僕と和泉守が同じ部隊でね。あっとごめん、江戸の時代ではあったはず。出陣場所も江戸だったからね。だけど詳しい時期はちょっと覚えていないや。戦闘はなかったはずだから見回りか警備だったと思う。
当時の記録を見せてもらったら任務の詳細はわかるかもしれないけど、任務の内容自体はこの話とはあんまり関係ないんだよね。
町中でね、ふと和泉守が人混みの向こうを指して話しかけてきたんだ。
「おい、あの女が見えるか?」って。
指した方向にはたしかに女の人がいてね。結構距離があるのにこちらをじーっと見ていたんだ。でもほら言っちゃなんだけど僕たちって整った容姿をしているだろう? そう、任務の時や一般の人たちに紛れるときなんかはある程度目立たないように変装したり偽装したりするけど、目ざとい人に顔を見られたりすることはあるからさ。だから僕たちに見惚れてるんじゃないの? なんて返したんだ。
そうしたら和泉守が「昨日かおとといもあの女を見かけたんだよなぁ」なんて。ならそれこそあの女の人はこの辺りに住んでいて、僕たちの誰かが気になって度々覗きに来てるんじゃないの? なんて茶化して返したんだったと思うんだよね。
ただ僕もこの時はそんな大事になるとは思っていなくてね当時のことはあんまりちゃんと覚えていないんだ。この会話も後から和泉守と振り返って話したからある程度記憶に残っているけれど、その時の様子、それこそ女の顔なんかは全然覚えていないんだ。
思えば和泉守はこうして会話を切り上げた時、釈然としない顔をしていたっけな。
それからしばらく経って遠征任務から帰ってきた部隊がしばらく騒いでいてね。え? あぁ、僕は参加していない部隊だったし直接騒ぎを見たわけじゃないんだ。うん、ひとづてに聞いた感じ。後で他の男士にも聞いてみてよ。それについては当時その部隊に所属していた奴がもっと詳しく話してくれると思う。僕の方から簡単に話すと内容は遠征任務の間、自分たちに注目している人間がいたってこと。どの任務でも、毎回。ほら、僕たち刀剣男士は歴史を守るために戦っているだろう。だから僕たちの不要な接触で歴史が変わることがないようにできるだけ目立たないように偽装をしているわけだ。さっき話したようにたまに目ざとい人間に見つけられたりするけれど、そんなことはそうそうないはずなんだ。そうだろう? だのに毎回こちらを気にする人間がいるなんて偽装がうまく機能していないんじゃないか、何か不具合があるんじゃないかっていう風に皆心配していたんだよね。この時は主に申し出て不具合がないか偽装システムについて調べたり、時の政府に問い合わせてもらうことになったんだ。結局とく問題は見つからなかったんだけど。
偽装が効いていない原因はわからなかったけど任務に直接支障が出るわけじゃなかったからね、多少心配はあったけどこれまで通り任務はこなしていたんだ。皆は今までより変装に力を入れたりしていたけどね。そうしてまた僕と和泉守が遠征任務で同じ部隊になった時だね。今度は僕がこちらをじっと見つめている人間、女の人を見つけたんだ。その時はあぁ、やっぱり偽装が上手くいってないのか。現地の人の記憶にあんまり残るようじゃまずいんだけど、どうしようかな? なんて考えて堀川に声をかけたんだよね。そう、この時は堀川も同部隊だったんだ。そうしたら堀川急に深刻そうな顔になってね。「あの女の人、この間の遠征任務でも見かけた」って。というのもこの遠征任務、先に行った任務で後世に影響が出ていないか確認するものだったんだよ。だから先の任務と同じ地域、そのちょうど一〇年後に来ていたんだ。うん、堀川には聞いてみたよ。本当に同じ人間なのかって。そうしたら何か際立った特徴があるわけではないけど顔立ちはよく似てる。前回見かけた娘が歳をとったらちょうどあんな感じになるんじゃないかって。それに堀川は前回気をつけて見ていたらしいんだ。「僕が部隊に参加した時、偽装が効いてないことが多いみたいなんです。よくこちらを注目している人間がいます。」ここでチラッと和泉守の様子を窺ってた。「あの女の人、僕たちじゃなくて兼さんを見てるんじゃないかと思う。いつも」思うって言い方したけど、堀川の中では確信があったんだろうね。とうの和泉守はまだ見られていることに気づいていなかった。どうしようか迷ったけど、本丸に帰るまであと少しだったしなんとか和泉守が気づかないように帰ろうって僕と堀川で決めたんだ。本丸に帰ってから詳しく相談しようかって。そう、和泉守には話しかけて気をそらしたりね。でも最後の最後に油断しちゃったのかな。帰る直前に和泉守がこちらを見つめる女の人に気づいて、ちょっと苦い表情になったよ。
うん、そうなんだ最初に騒ぎになった部隊には和泉守が所属していてね。結論から言うと人間は僕たち刀剣男士を気にして見ていたんじゃなかったんだ。堀川がさっき話したように”女”が和泉守のことを見ていたんだ。一度気づいてからは必ず現れるようになった、いや、気にするようになったから気づくようになっただけで、今までもずっと見ていたのかも知れない。
和泉守も僕たちが気を回すまでもなくわかっていたんだね。遠征のたびに「またあの女だよ」なんてうんざりしていて。え? そうだね、和泉守も堀川と同じく同一人物だと思っていたみたい。うん、僕も何度も見ているけどおんなじ人だと感じたな。さっきも言ったように特徴的な顔って訳じゃないんだよ。大きなほくろがあるとか傷があるとか、とんでもない美人だとか。普通の、普段だったら印象に残らない人間だよ。でもねぇ、なんていうか視線の圧がすごくてね。熱量っていうか、和泉守だけをあんなにじとーっと見つめてくる人ってそう何人もいないだろう。
僕たちもね”和泉守が見られている”というのは勘違いかもしれないと思っていろいろ試してみたりはしたんだ。でもね、そうやって確認してみるとやっぱり和泉守が任務に参加していない時にはその女は現れない。
これは僕や堀川、それこそ他にその女を見ている刀剣男士が確認したんだ。
もっとも和泉守以外へは熱っぽい目で見てくるわけじゃないから気づかないだけだったのかもしれないね。
別に何かしてくるわけじゃないけど必ず現れて見つめてくるって気味悪いよね。結局偽装はその女以外にはちゃんと効いてるわけだったし。どうして和泉守がいつもわかってそんなにじっとり見てくるんだろうって。
あぁ、うん。そこは不思議に感じるよね。色んな時代に現れたんだよ、和泉守を見ていた女は。別に江戸の時代に限った話じゃない。出てくるところも日本中、色んな場所の任務で見かけた。えぇっ? いやー、幽霊とか妖怪って感じではないと思う。ちゃんと肉体を持つ人間みたいに見えたな。いや、同じ女が色んな時代、色んな場所に現れるってそもそもおかしいんだけどね。そうそう、短刀や脇差しに後をつけてもらったりしたんだけど上手くいかなくてね。変だろう? 人間だと感じるのにただの人間を僕たちが見失うなんてね。皆もおかしいねって結構女について話していたな。そうしているうちに南海太郎朝尊なんかは興味を持っちゃって。その女が現れる法則やこの状況になった理屈がわかれば解決するんじゃないかって色々記録をつけたり、実験したりしていたよ。ほら、さっきの話で堀川が見かけたのは同じ土地で一〇年後に年齢を重ねた女を見たって流れだっただろう? 南海太郎朝尊はもっと細かく比べてみようと試みてね。和泉守をつれて同じ地域で別の時代の任務に行ってみたり、逆に同じ時代で別の土地にも現れるか検証していたよ。そうだね、同じ女に見えたけどある時は身分の高そうな格好、ある時はみすぼらしい格好とその時その時で違ったりやっぱり変だよね。こうして情報だけ並べたら同じ女なワケないのに。
そんな風に彼らはあの女について一つの推測に辿り着いた。いろんな時代に現れる女は生まれ変わって和泉守兼定につきまとってるんじゃないかって。
そんなさぁ、普通生まれ変わりととかあると思う? いや、輪廻転生とか宗教観としてはあるかもしれないけどさ。実際現代に残ってるような生まれ変わりの話って、子供が見たことも言ったこともない土地や人間の話をする。そこを探してみたら子供が生まれた頃と同じ時期に亡くなった人がいて、きっと子供はその人の生まれ変わりだったんだ。ってくらいじゃない? それだってさぁ、怪しいものだよね。いやな考えかも知れないけど、裏で誰かが何か企んでいたり、後から箔付けのために作った話なんじゃないのかって。あぁ、ごめん本題からずれちゃったね。生まれ変わってつきまとってるなんてかなり飛躍した発想だと思って。同じくらいの時代でも別の土地に現れるのとかはどういう理由だって、ねぇ? でもこの考えに辿りついちゃったら、和泉守はもうこれしか考えられなかったみたいだった。
いつ、最初の女と接触したのか、どうしてつきまといが始まったのかわからない。正直和泉守には心当たりがなかったって。別に女癖が悪くて各時代で女に粉かけてたとかそんなこともないし。他の男士と比べてこれといって過去の人間と接触する機会があったワケでもない。でも生まれ変わってつきまとっているなら“いつか”の過去で和泉守兼定は最初の女と接触して、つきまといが始まったんじゃないかと仮定した。それでその“最初の女”の時代が確定できればそれ以前の時代なら女に出会うことなく過ごせるんじゃないか? って古い方へ古い方へって過去の時代の任務に参加するようになっていった。でもねぇ、各時代を虱潰しに確認していってもどこにでもいる。任務で向かうことができる最古の時代を確認して、もうダメだーって痛感したって。ずっと、ずーっと昔の時代から女は和泉守につきまとってたって。過去にはもう女につきまとわれない”時”は無いって。
うん、さっき幽霊や妖とも違う人間のように思えたっていうのは話したろう? これだけ各時代に現れるんだから時間遡行軍かって疑いも一応持ったんだよね。でも何をするでもなくこちらを見ているだけだし、任務でぶつかった時間遡行軍たちもあの女と接触したり気にすることはなかったから、時間遡行軍とも関係ないみたいだったよ。そうなると、その女を直接どうこうするってわけにもいかないしね。ほら、過去に生きている人間ならば、歴史を守ることに関係ないのに過度な接触をするのは避けた方が良いだろう? 歴史の中で役割を持たない人間だとしても、ちょっとしたことで過去を変えてしまう可能性があるからね。その女にはこちらから直接干渉できない。理由を直接問いただしたり、やめるように言ったりね。いやー、和泉守は怒りでどうにかなって、たたっ切っちゃいそうになるのを必死に我慢していたらしいよ。
そうやって、理由もわからない、解決もできない、いつの時代にも現れるっていうのが重なって和泉守はだんだん遠征に参加するのが嫌になってきた。女が視界に入らないような、周りを気にする余裕もないような激しい戦闘の任務にばかり参加するようになっていった。それだけじゃない。いつもちょっとギスギスしていて女性を見かけると一瞬身構える。どの時代でも女が現れたんじゃないかって警戒するようになっていた。
唯一本丸にいる時はホッとするみたいでね。周りを気にしないでのんびりしていたよ。
主もねそうやって和泉守の周りで異常が起こっているのはわかっていたからね、それならばっていっそのこと本丸内での仕事を和泉守に任せてね。うん、過去にいかなくても済むようにって。和泉守なんだかんだ言って事務仕事なんかも上手かったからね。ここ一年くらいはそうやって穏やかに過ごしていたんだよ。うん、そう思っていたんだけどね。
それで、ちょっと話は変わるんだけど見ての通りうちの主はかなり高齢だろう? うん、後継を立てて引退することを考えていたんだ。白羽の矢が立ったのは主の孫娘。今はもう大人になったけど小さな頃に何度か本丸にも遊びに来ていて刀剣男士にも懐いていた。人懐っこい子で男士もみんなかわいがっていた。よく知っている子だから和泉守も大丈夫だろうと安心していた。和泉守自身もね。
ところが、顔合わせや引き継ぎの打ち合わせも兼ねてやってきた。とたん和泉守兼定は刀解を申し出たんだ。主の孫娘が俺をじーっとあの熱っぽい目で見つめてくる。あの女がついに現代まで来たか、本丸でずっと一緒に生活するのは耐えられない。いっそのこと刀解してくれってね。うーん。たしかに主の孫娘は和泉守兼定が好きみたいだったけどね。ただ、僕は主の孫娘は女の生まれ変わりじゃなかったと思うんだ。これは他の男士から聞いたことなんだけど、小さな頃主の孫娘がかねさんが好き! って打ち明けてたみたいなんだよね。その頃って女のつきまといはまだなかった頃だし、和泉守兼定は子供に対してウケも良いから小さい女の子から好意を向けられるのは当然かなって。顔合わせの時の様子でもそんな風には見えなかったからね。うーん、まぁ時間の順序がややこしいんだけどね。ずーっと過去の時代からつきまとわれていたワケなんだけど、本丸の時間でいうと小さな頃に主の孫娘とあってからずいぶんたった後に和泉守のつきまといは始まったわけだから。
でも和泉守兼定もだいぶ参ってたからなぁ。うん、本丸で穏やかに過ごしているんだと思っていたけどね。でもやっぱり戦えないことが苦しかったみたい。戦って歴史を守ることが自分の本分のにって。
そうして和泉守兼定と堀川国広は刀解されたんだ。刀解された刀剣男士はどうなるんだろうね。あの世で楽しくやってたらいいなって思うけど。刀剣男士のあの世ってどこだよって思うよね。そもそも人間だって地獄とか天国とかそもそもあるのかな。生きてるものからすると死んだ相手を魂についても色々と考えちゃうけど。こんなに技術が進んだ二二〇〇年代でも死後の世界が見つかってないんだから、やっぱり死んだら何にも無くなるだけだと思うんだよね。いちいち、死んだ後も苦しんでるんじゃないかって心配したり、不安がってもどうにもならないから、それならいっそ何にもなくなっちゃうって考えた方が楽だよね。幽霊とか。見たことないし、僕も他のみんなも。
その後のあるじのお孫さん? いや、それが運の悪いことに亡くなってね。え? 自殺? いやいや違うよ、病気でもない事故だよ。ほんと偶然、突っ込んできた鉄の車に巻き込まれたんだって。
偶然のはずだけど和泉守兼定が刀解されてすぐの時期だったから偶然にしてはすごいタイミングだよね。
現実主義者な大和守安定が語った話
そう。和泉守は自分から刀解を願い出てね。そうだね、悲しかったけれど最期の頃にはひどく憔悴していたから。僕としてはあいつが楽になったのならこれでよかったのかもしれないと思っているよ。
いや、そう思いたいだけかな。
それで和泉守が刀解されるなら自分も、って堀川国広も一緒に。
うん、だから今この本丸には和泉守兼定と堀川国広はいないんだ。
堀川の次に和泉守と親しかったのは僕だから、たぶん今この本丸で一番このことに詳しいのは僕だと思う。和泉守に起こったことうまくまとめられるように頑張って話すね。
最初に覚えているのは一〇年、いやもうちょっと最近、六,七年くらい前だったかな。
遠征任務で僕と和泉守が同じ部隊でね。あっとごめん、江戸の時代ではあったはず。出陣場所も江戸だったからね。だけど詳しい時期はちょっと覚えていないや。戦闘はなかったはずだから見回りか警備だったと思う。
当時の記録を見せてもらったら任務の詳細はわかるかもしれないけど、任務の内容自体はこの話とはあんまり関係ないんだよね。
町中でね、ふと和泉守が人混みの向こうを指して話しかけてきたんだ。
「おい、あの女が見えるか?」って。
指した方向にはたしかに女の人がいてね。結構距離があるのにこちらをじーっと見ていたんだ。でもほら言っちゃなんだけど僕たちって整った容姿をしているだろう? そう、任務の時や一般の人たちに紛れるときなんかはある程度目立たないように変装したり偽装したりするけど、目ざとい人に顔を見られたりすることはあるからさ。だから僕たちに見惚れてるんじゃないの? なんて返したんだ。
そうしたら和泉守が「昨日かおとといもあの女を見かけたんだよなぁ」なんて。ならそれこそあの女の人はこの辺りに住んでいて、僕たちの誰かが気になって度々覗きに来てるんじゃないの? なんて茶化して返したんだったと思うんだよね。
ただ僕もこの時はそんな大事になるとは思っていなくてね当時のことはあんまりちゃんと覚えていないんだ。この会話も後から和泉守と振り返って話したからある程度記憶に残っているけれど、その時の様子、それこそ女の顔なんかは全然覚えていないんだ。
思えば和泉守はこうして会話を切り上げた時、釈然としない顔をしていたっけな。
それからしばらく経って遠征任務から帰ってきた部隊がしばらく騒いでいてね。え? あぁ、僕は参加していない部隊だったし直接騒ぎを見たわけじゃないんだ。うん、ひとづてに聞いた感じ。後で他の男士にも聞いてみてよ。それについては当時その部隊に所属していた奴がもっと詳しく話してくれると思う。僕の方から簡単に話すと内容は遠征任務の間、自分たちに注目している人間がいたってこと。どの任務でも、毎回。ほら、僕たち刀剣男士は歴史を守るために戦っているだろう。だから僕たちの不要な接触で歴史が変わることがないようにできるだけ目立たないように偽装をしているわけだ。さっき話したようにたまに目ざとい人間に見つけられたりするけれど、そんなことはそうそうないはずなんだ。そうだろう? だのに毎回こちらを気にする人間がいるなんて偽装がうまく機能していないんじゃないか、何か不具合があるんじゃないかっていう風に皆心配していたんだよね。この時は主に申し出て不具合がないか偽装システムについて調べたり、時の政府に問い合わせてもらうことになったんだ。結局とく問題は見つからなかったんだけど。
偽装が効いていない原因はわからなかったけど任務に直接支障が出るわけじゃなかったからね、多少心配はあったけどこれまで通り任務はこなしていたんだ。皆は今までより変装に力を入れたりしていたけどね。そうしてまた僕と和泉守が遠征任務で同じ部隊になった時だね。今度は僕がこちらをじっと見つめている人間、女の人を見つけたんだ。その時はあぁ、やっぱり偽装が上手くいってないのか。現地の人の記憶にあんまり残るようじゃまずいんだけど、どうしようかな? なんて考えて堀川に声をかけたんだよね。そう、この時は堀川も同部隊だったんだ。そうしたら堀川急に深刻そうな顔になってね。「あの女の人、この間の遠征任務でも見かけた」って。というのもこの遠征任務、先に行った任務で後世に影響が出ていないか確認するものだったんだよ。だから先の任務と同じ地域、そのちょうど一〇年後に来ていたんだ。うん、堀川には聞いてみたよ。本当に同じ人間なのかって。そうしたら何か際立った特徴があるわけではないけど顔立ちはよく似てる。前回見かけた娘が歳をとったらちょうどあんな感じになるんじゃないかって。それに堀川は前回気をつけて見ていたらしいんだ。「僕が部隊に参加した時、偽装が効いてないことが多いみたいなんです。よくこちらを注目している人間がいます。」ここでチラッと和泉守の様子を窺ってた。「あの女の人、僕たちじゃなくて兼さんを見てるんじゃないかと思う。いつも」思うって言い方したけど、堀川の中では確信があったんだろうね。とうの和泉守はまだ見られていることに気づいていなかった。どうしようか迷ったけど、本丸に帰るまであと少しだったしなんとか和泉守が気づかないように帰ろうって僕と堀川で決めたんだ。本丸に帰ってから詳しく相談しようかって。そう、和泉守には話しかけて気をそらしたりね。でも最後の最後に油断しちゃったのかな。帰る直前に和泉守がこちらを見つめる女の人に気づいて、ちょっと苦い表情になったよ。
うん、そうなんだ最初に騒ぎになった部隊には和泉守が所属していてね。結論から言うと人間は僕たち刀剣男士を気にして見ていたんじゃなかったんだ。堀川がさっき話したように”女”が和泉守のことを見ていたんだ。一度気づいてからは必ず現れるようになった、いや、気にするようになったから気づくようになっただけで、今までもずっと見ていたのかも知れない。
和泉守も僕たちが気を回すまでもなくわかっていたんだね。遠征のたびに「またあの女だよ」なんてうんざりしていて。え? そうだね、和泉守も堀川と同じく同一人物だと思っていたみたい。うん、僕も何度も見ているけどおんなじ人だと感じたな。さっきも言ったように特徴的な顔って訳じゃないんだよ。大きなほくろがあるとか傷があるとか、とんでもない美人だとか。普通の、普段だったら印象に残らない人間だよ。でもねぇ、なんていうか視線の圧がすごくてね。熱量っていうか、和泉守だけをあんなにじとーっと見つめてくる人ってそう何人もいないだろう。
僕たちもね”和泉守が見られている”というのは勘違いかもしれないと思っていろいろ試してみたりはしたんだ。でもね、そうやって確認してみるとやっぱり和泉守が任務に参加していない時にはその女は現れない。
これは僕や堀川、それこそ他にその女を見ている刀剣男士が確認したんだ。
もっとも和泉守以外へは熱っぽい目で見てくるわけじゃないから気づかないだけだったのかもしれないね。
別に何かしてくるわけじゃないけど必ず現れて見つめてくるって気味悪いよね。結局偽装はその女以外にはちゃんと効いてるわけだったし。どうして和泉守がいつもわかってそんなにじっとり見てくるんだろうって。
あぁ、うん。そこは不思議に感じるよね。色んな時代に現れたんだよ、和泉守を見ていた女は。別に江戸の時代に限った話じゃない。出てくるところも日本中、色んな場所の任務で見かけた。えぇっ? いやー、幽霊とか妖怪って感じではないと思う。ちゃんと肉体を持つ人間みたいに見えたな。いや、同じ女が色んな時代、色んな場所に現れるってそもそもおかしいんだけどね。そうそう、短刀や脇差しに後をつけてもらったりしたんだけど上手くいかなくてね。変だろう? 人間だと感じるのにただの人間を僕たちが見失うなんてね。皆もおかしいねって結構女について話していたな。そうしているうちに南海太郎朝尊なんかは興味を持っちゃって。その女が現れる法則やこの状況になった理屈がわかれば解決するんじゃないかって色々記録をつけたり、実験したりしていたよ。ほら、さっきの話で堀川が見かけたのは同じ土地で一〇年後に年齢を重ねた女を見たって流れだっただろう? 南海太郎朝尊はもっと細かく比べてみようと試みてね。和泉守をつれて同じ地域で別の時代の任務に行ってみたり、逆に同じ時代で別の土地にも現れるか検証していたよ。そうだね、同じ女に見えたけどある時は身分の高そうな格好、ある時はみすぼらしい格好とその時その時で違ったりやっぱり変だよね。こうして情報だけ並べたら同じ女なワケないのに。
そんな風に彼らはあの女について一つの推測に辿り着いた。いろんな時代に現れる女は生まれ変わって和泉守兼定につきまとってるんじゃないかって。
そんなさぁ、普通生まれ変わりととかあると思う? いや、輪廻転生とか宗教観としてはあるかもしれないけどさ。実際現代に残ってるような生まれ変わりの話って、子供が見たことも言ったこともない土地や人間の話をする。そこを探してみたら子供が生まれた頃と同じ時期に亡くなった人がいて、きっと子供はその人の生まれ変わりだったんだ。ってくらいじゃない? それだってさぁ、怪しいものだよね。いやな考えかも知れないけど、裏で誰かが何か企んでいたり、後から箔付けのために作った話なんじゃないのかって。あぁ、ごめん本題からずれちゃったね。生まれ変わってつきまとってるなんてかなり飛躍した発想だと思って。同じくらいの時代でも別の土地に現れるのとかはどういう理由だって、ねぇ? でもこの考えに辿りついちゃったら、和泉守はもうこれしか考えられなかったみたいだった。
いつ、最初の女と接触したのか、どうしてつきまといが始まったのかわからない。正直和泉守には心当たりがなかったって。別に女癖が悪くて各時代で女に粉かけてたとかそんなこともないし。他の男士と比べてこれといって過去の人間と接触する機会があったワケでもない。でも生まれ変わってつきまとっているなら“いつか”の過去で和泉守兼定は最初の女と接触して、つきまといが始まったんじゃないかと仮定した。それでその“最初の女”の時代が確定できればそれ以前の時代なら女に出会うことなく過ごせるんじゃないか? って古い方へ古い方へって過去の時代の任務に参加するようになっていった。でもねぇ、各時代を虱潰しに確認していってもどこにでもいる。任務で向かうことができる最古の時代を確認して、もうダメだーって痛感したって。ずっと、ずーっと昔の時代から女は和泉守につきまとってたって。過去にはもう女につきまとわれない”時”は無いって。
うん、さっき幽霊や妖とも違う人間のように思えたっていうのは話したろう? これだけ各時代に現れるんだから時間遡行軍かって疑いも一応持ったんだよね。でも何をするでもなくこちらを見ているだけだし、任務でぶつかった時間遡行軍たちもあの女と接触したり気にすることはなかったから、時間遡行軍とも関係ないみたいだったよ。そうなると、その女を直接どうこうするってわけにもいかないしね。ほら、過去に生きている人間ならば、歴史を守ることに関係ないのに過度な接触をするのは避けた方が良いだろう? 歴史の中で役割を持たない人間だとしても、ちょっとしたことで過去を変えてしまう可能性があるからね。その女にはこちらから直接干渉できない。理由を直接問いただしたり、やめるように言ったりね。いやー、和泉守は怒りでどうにかなって、たたっ切っちゃいそうになるのを必死に我慢していたらしいよ。
そうやって、理由もわからない、解決もできない、いつの時代にも現れるっていうのが重なって和泉守はだんだん遠征に参加するのが嫌になってきた。女が視界に入らないような、周りを気にする余裕もないような激しい戦闘の任務にばかり参加するようになっていった。それだけじゃない。いつもちょっとギスギスしていて女性を見かけると一瞬身構える。どの時代でも女が現れたんじゃないかって警戒するようになっていた。
唯一本丸にいる時はホッとするみたいでね。周りを気にしないでのんびりしていたよ。
主もねそうやって和泉守の周りで異常が起こっているのはわかっていたからね、それならばっていっそのこと本丸内での仕事を和泉守に任せてね。うん、過去にいかなくても済むようにって。和泉守なんだかんだ言って事務仕事なんかも上手かったからね。ここ一年くらいはそうやって穏やかに過ごしていたんだよ。うん、そう思っていたんだけどね。
それで、ちょっと話は変わるんだけど見ての通りうちの主はかなり高齢だろう? うん、後継を立てて引退することを考えていたんだ。白羽の矢が立ったのは主の孫娘。今はもう大人になったけど小さな頃に何度か本丸にも遊びに来ていて刀剣男士にも懐いていた。人懐っこい子で男士もみんなかわいがっていた。よく知っている子だから和泉守も大丈夫だろうと安心していた。和泉守自身もね。
ところが、顔合わせや引き継ぎの打ち合わせも兼ねてやってきた。とたん和泉守兼定は刀解を申し出たんだ。主の孫娘が俺をじーっとあの熱っぽい目で見つめてくる。あの女がついに現代まで来たか、本丸でずっと一緒に生活するのは耐えられない。いっそのこと刀解してくれってね。うーん。たしかに主の孫娘は和泉守兼定が好きみたいだったけどね。ただ、僕は主の孫娘は女の生まれ変わりじゃなかったと思うんだ。これは他の男士から聞いたことなんだけど、小さな頃主の孫娘がかねさんが好き! って打ち明けてたみたいなんだよね。その頃って女のつきまといはまだなかった頃だし、和泉守兼定は子供に対してウケも良いから小さい女の子から好意を向けられるのは当然かなって。顔合わせの時の様子でもそんな風には見えなかったからね。うーん、まぁ時間の順序がややこしいんだけどね。ずーっと過去の時代からつきまとわれていたワケなんだけど、本丸の時間でいうと小さな頃に主の孫娘とあってからずいぶんたった後に和泉守のつきまといは始まったわけだから。
でも和泉守兼定もだいぶ参ってたからなぁ。うん、本丸で穏やかに過ごしているんだと思っていたけどね。でもやっぱり戦えないことが苦しかったみたい。戦って歴史を守ることが自分の本分のにって。
そうして和泉守兼定と堀川国広は刀解されたんだ。刀解された刀剣男士はどうなるんだろうね。あの世で楽しくやってたらいいなって思うけど。刀剣男士のあの世ってどこだよって思うよね。そもそも人間だって地獄とか天国とかそもそもあるのかな。生きてるものからすると死んだ相手を魂についても色々と考えちゃうけど。こんなに技術が進んだ二二〇〇年代でも死後の世界が見つかってないんだから、やっぱり死んだら何にも無くなるだけだと思うんだよね。いちいち、死んだ後も苦しんでるんじゃないかって心配したり、不安がってもどうにもならないから、それならいっそ何にもなくなっちゃうって考えた方が楽だよね。幽霊とか。見たことないし、僕も他のみんなも。
その後のあるじのお孫さん? いや、それが運の悪いことに亡くなってね。え? 自殺? いやいや違うよ、病気でもない事故だよ。ほんと偶然、突っ込んできた鉄の車に巻き込まれたんだって。
偶然のはずだけど和泉守兼定が刀解されてすぐの時期だったから偶然にしてはすごいタイミングだよね。
現実主義者な大和守安定が語った話