すぐそばにポケモンセンターがあって良かった。傷ついたポケモン達が戻ってくるのはあっという間のことなのに、さっきのバトルで生まれた高揚感のせいか、あるいは後ろで待たせている少女の存在のせいなのか、いつもより待つ時間が長くって焦れったい。
(早く早く! あの子が待ちくたびれて呆れちまわないように! 早くあの子と一緒に行けるように!)
「君のヤンヤンマかっこいいねぇ!」
「わ!?」
黙って待っているものと思っていた”あの子”は後ろからひょっこりと顔をのぞかせて問いかけてきた。いま回復しているポケモン達とスグリの顔を見比べて。と同時に軽快なメロディがそのポケモン達の回復が終わったことを知らせた。
「次は私が回復させてね」
ボールを受け取り、彼女に場所を譲る。ついさっき自分とのバトルに勝利した少女、アオイが自分のポケモンをスタッフの女性――なんだか少し言葉がぶっきらぼうに感じて、スグリは苦手だった――に預ける。目の前で彼女はスタッフと挨拶だけでなく、時に笑いも交えながらペラペラと雑談を交わしている。
(昨日ここに来たばっかなのに全然物怖じしねぇ子なんだな)
再び鳴った軽快なメロディが彼女の会話を終わらせた。
「お待たせ!」
ポケモンを受け取って、くるりとこちらを向き直る。
彼女の準備が終わったなら、それじゃあ、行こうか・・・・・・、と切り出そうとしたスグリだが。
「それで、スグリ君のヤンヤンマがすごくかっこいいなって、わたし思ったんだけど」
「えぇ? なんで?」
アオイの繰り返した言葉によってそれは遮られてしまった。
自分が負かしたポケモンをかっこいい? そんな風に感じるだろうか? 何か含みがあってお世辞を言っている? そんな疑いがよぎるが、目の前の少女は目を輝かせて、さっきのエアーカッターがー、とか。身のこなしがーとか、言葉を続けている。
「虫ポケモン好きなんか?」
「うん!」
一度しまったモンスターボールを取り出す。開閉スイッチの軽い手応えと共に飛び出したオレンジ色のポケモン。スイーッと自分たちの周りを一周した後、そこが定位置だというようにスグリが軽くあげた右腕にとまった。わっ! と声を上げたアオイ。クリクリと首をかしげるヤンヤンマと同じように首をかしげて顔を見合わせている。
(虫ポケモンが苦手な子って多いけど、この子はほんとに好きなんじゃな)
「ヤンヤンマならすぐそこに、たくさんいるけどゲットしねぇの?」
スイリョクタウンの目の前、田んぼの周辺はそこらじゅうにヤンヤンマが飛んでいる。バス停からここまでくる間に遭遇していないなんてことはない。彼女の実力なら強くて捕まえられないということもないだろう。
「うーん・・・・・・」顔をあげた彼女は人差し指を眉間に当ててうなり始める。何かまずい話を聞いてしまっただろうか?
「田んぼにいたヤンヤンマたち、どのこもかっこよくて目移りしちゃってまだゲットできていないんだよね。どうしよう! 絶対ゲットしたいんだけど、どの子も良すぎて決められない!」
それに昨日は急いで公民館に向かっていたからゲットする暇もなかったんだよね。アハハハハ、と軽く笑う。
「はー、さっきのバトルも素早くて翻弄されちゃった。先手をとられた時はちょっと焦ったよ。スグリ君とヤンヤンマ強いねぇ!」
「・・・・・・呼び捨てでいい。でも俺負けちまったし、アオイの方が強えーし」
どんなにすばしっこく動けたとしても、彼女が勝って自分が負けた。負けた自分に褒められる点なんて、ないだろうに。こうして声をかけられるのは嬉しい。でも。
強い、強いと褒められても”負けた"という一点が気持ちを曇らせる。(アオイはこんなに強いんだから負けたのなんて当然なのに)
「アオイは虫ポケモン連れてねぇの? さっきのバトルではいなかったけど」
だめだ、これから彼女と看板巡りをするのだから。こんな暗い気持ちでいたら彼女もきっといやな気分になる。気持ちを切り替えようと彼女のポケモンのことに話を向けてみる。
「いるよ! さっきは出番なかったけど、私が最初に自力でゲットしたのは虫ポケモンなの。この子!」
えいっと下手投げの要領で放り投げられる。ポウン! という軽い開閉音と同時、大きな影が開いた。
それはゆったりと羽ばたき、大きな弧を描く。ゆらりゆらりと漂って最後にでもう一度、少女の上で羽ばたき、帽子に降り立った。
(でっけぇリボンみたいじゃ!)
ピクピク触覚を揺らし、にっこりとした黒いまなこ。桃色のファンシーな翅を機嫌良さそうに揺らす。
ほう、と大きな息が漏れた。
ただ、ボールから飛び出してきただけなのに目の前の一人と一匹はどうしてこんなにも存在感があるのだろうか。
(やっぱりアオイは“主人公”なんじゃ!)
この子はビビヨンって言ってね――身振り手振りを加えて自分のポケモンについて語る。時折頭上のビビヨンを見上げると、ビビヨンの方も身を乗り出して、お互いうんうん頷き合っている。
ふと右腕の感触が変わった。少し腕を上げてやると、それに応えるようにヤンヤンマが浮上する。彼女の頭の上で停止すると、同じ高さで顔をつきあわせた二匹はさっきのアオイのように一緒に首を傾げはじめた。
「きれいなポケモンっこだなあ」
「へ、へへ! ありがとう!」
「動きもきれいだぁ、こんなしめし合わせたみたいな動きができるなんて、すごいなぁ」
「アハハ、実はね……」
チラチラと視線が泳いだ後、ひょいと顔を寄せてくる。
ビビヨンの大きな翅で日が遮られた。
「これ! 実はすっごく練習したの! 子供の頃、テレビでアゲハントを頭に乗せたトレーナーがすっごく綺麗で憧れだったんだ!」
口元に寄せた手の中で、重大な秘密を打ち明けるように彼女は囁いたのだった。
(早く早く! あの子が待ちくたびれて呆れちまわないように! 早くあの子と一緒に行けるように!)
「君のヤンヤンマかっこいいねぇ!」
「わ!?」
黙って待っているものと思っていた”あの子”は後ろからひょっこりと顔をのぞかせて問いかけてきた。いま回復しているポケモン達とスグリの顔を見比べて。と同時に軽快なメロディがそのポケモン達の回復が終わったことを知らせた。
「次は私が回復させてね」
ボールを受け取り、彼女に場所を譲る。ついさっき自分とのバトルに勝利した少女、アオイが自分のポケモンをスタッフの女性――なんだか少し言葉がぶっきらぼうに感じて、スグリは苦手だった――に預ける。目の前で彼女はスタッフと挨拶だけでなく、時に笑いも交えながらペラペラと雑談を交わしている。
(昨日ここに来たばっかなのに全然物怖じしねぇ子なんだな)
再び鳴った軽快なメロディが彼女の会話を終わらせた。
「お待たせ!」
ポケモンを受け取って、くるりとこちらを向き直る。
彼女の準備が終わったなら、それじゃあ、行こうか・・・・・・、と切り出そうとしたスグリだが。
「それで、スグリ君のヤンヤンマがすごくかっこいいなって、わたし思ったんだけど」
「えぇ? なんで?」
アオイの繰り返した言葉によってそれは遮られてしまった。
自分が負かしたポケモンをかっこいい? そんな風に感じるだろうか? 何か含みがあってお世辞を言っている? そんな疑いがよぎるが、目の前の少女は目を輝かせて、さっきのエアーカッターがー、とか。身のこなしがーとか、言葉を続けている。
「虫ポケモン好きなんか?」
「うん!」
一度しまったモンスターボールを取り出す。開閉スイッチの軽い手応えと共に飛び出したオレンジ色のポケモン。スイーッと自分たちの周りを一周した後、そこが定位置だというようにスグリが軽くあげた右腕にとまった。わっ! と声を上げたアオイ。クリクリと首をかしげるヤンヤンマと同じように首をかしげて顔を見合わせている。
(虫ポケモンが苦手な子って多いけど、この子はほんとに好きなんじゃな)
「ヤンヤンマならすぐそこに、たくさんいるけどゲットしねぇの?」
スイリョクタウンの目の前、田んぼの周辺はそこらじゅうにヤンヤンマが飛んでいる。バス停からここまでくる間に遭遇していないなんてことはない。彼女の実力なら強くて捕まえられないということもないだろう。
「うーん・・・・・・」顔をあげた彼女は人差し指を眉間に当ててうなり始める。何かまずい話を聞いてしまっただろうか?
「田んぼにいたヤンヤンマたち、どのこもかっこよくて目移りしちゃってまだゲットできていないんだよね。どうしよう! 絶対ゲットしたいんだけど、どの子も良すぎて決められない!」
それに昨日は急いで公民館に向かっていたからゲットする暇もなかったんだよね。アハハハハ、と軽く笑う。
「はー、さっきのバトルも素早くて翻弄されちゃった。先手をとられた時はちょっと焦ったよ。スグリ君とヤンヤンマ強いねぇ!」
「・・・・・・呼び捨てでいい。でも俺負けちまったし、アオイの方が強えーし」
どんなにすばしっこく動けたとしても、彼女が勝って自分が負けた。負けた自分に褒められる点なんて、ないだろうに。こうして声をかけられるのは嬉しい。でも。
強い、強いと褒められても”負けた"という一点が気持ちを曇らせる。(アオイはこんなに強いんだから負けたのなんて当然なのに)
「アオイは虫ポケモン連れてねぇの? さっきのバトルではいなかったけど」
だめだ、これから彼女と看板巡りをするのだから。こんな暗い気持ちでいたら彼女もきっといやな気分になる。気持ちを切り替えようと彼女のポケモンのことに話を向けてみる。
「いるよ! さっきは出番なかったけど、私が最初に自力でゲットしたのは虫ポケモンなの。この子!」
えいっと下手投げの要領で放り投げられる。ポウン! という軽い開閉音と同時、大きな影が開いた。
それはゆったりと羽ばたき、大きな弧を描く。ゆらりゆらりと漂って最後にでもう一度、少女の上で羽ばたき、帽子に降り立った。
(でっけぇリボンみたいじゃ!)
ピクピク触覚を揺らし、にっこりとした黒いまなこ。桃色のファンシーな翅を機嫌良さそうに揺らす。
ほう、と大きな息が漏れた。
ただ、ボールから飛び出してきただけなのに目の前の一人と一匹はどうしてこんなにも存在感があるのだろうか。
(やっぱりアオイは“主人公”なんじゃ!)
この子はビビヨンって言ってね――身振り手振りを加えて自分のポケモンについて語る。時折頭上のビビヨンを見上げると、ビビヨンの方も身を乗り出して、お互いうんうん頷き合っている。
ふと右腕の感触が変わった。少し腕を上げてやると、それに応えるようにヤンヤンマが浮上する。彼女の頭の上で停止すると、同じ高さで顔をつきあわせた二匹はさっきのアオイのように一緒に首を傾げはじめた。
「きれいなポケモンっこだなあ」
「へ、へへ! ありがとう!」
「動きもきれいだぁ、こんなしめし合わせたみたいな動きができるなんて、すごいなぁ」
「アハハ、実はね……」
チラチラと視線が泳いだ後、ひょいと顔を寄せてくる。
ビビヨンの大きな翅で日が遮られた。
「これ! 実はすっごく練習したの! 子供の頃、テレビでアゲハントを頭に乗せたトレーナーがすっごく綺麗で憧れだったんだ!」
口元に寄せた手の中で、重大な秘密を打ち明けるように彼女は囁いたのだった。