クエストはデートじゃねーからっ!!!!

 流石はここら一帯で一番の大都市。ルルシオンは早朝から人通りが絶えず、賑やかだ。もうこの街に出入りするようになって随分経つが故郷の村とは全く違う雰囲気はいつでも新鮮に感じる。
 賑やかな空気につられて、ライダーの少女は足取り軽く目的地に向かっていた。ルルシオンの広場、商業区の入り口にいつも通り彼はいるだろうか? 予定は空いているかしらん? もし都合が合えばサブクエストに付き合ってもらってそれで……と、考えを巡らせているうちに目当ての人物が見えてきた。同い年くらいのハンターの少年カイルだ。出会ったばかりの頃はハンターとライダー、お互いの存在への不理解からぶつかっていたが、以前よりはグッと仲良くなった・・・・・・はずだ。おうい、と片手をあげ少年へ声をかけようとする。いつもだったら気配に敏い彼のオトモアイルー共々こちらの存在に早々に気づくのだが、今日はそうともいかない。どこか他へ注意が向いているようだが? いつもと違う二人の様子を窺っていると、さらに二人の少年と一人の少女がやってくる。
 ここからでは話の内容は聞こえないが、軽く手を上げ挨拶する様子や装いからすると少年と知り合い、同年代のハンターのようだ。
(あれ? カイルくんってあんな顔するんだ……)
 お互いを軽くこづいたり、軽口を叩き合っているようなやりとり。その表情にはいつも自分に見せる眉間の皺はない。友人たちと明るく会話する、年頃の少年の顔だった。
(あんなに楽しそうにしているところ、邪魔しちゃ悪いよね)
 自分の用事は別に“今”でなくても構わない。また今度誘おうと、そっとその場から離れる。さっきまであんなに楽しそうに思えたルルシオンの喧騒が、今はなんだかやたらと鬱陶しくて早くこの場を離れたかった。
 
 というのが今日の朝の出来事である。
 今ライダーの少女がいるのはルルシオンの若者向けの軽食店のテラス席。目の前の席には今朝誘うのをやめたハンターの少年。
「クエストはデートじゃねーんだよっ!!」
 ドンっと握り拳をテーブルに打ち付ける。
 今朝の様子とは一転して一眼見てわかるほどに不機嫌だ。
 いったいどうしてこうなったのか。自分は今日、いつも一緒のナビルーとは別行動をとっていた。彼は昔馴染みの書士隊の部隊長に会いに行っているのだ。一方自分は、どうせ一人で過ごすならと足りなくなった生活用品やアイテムの買い出しをすることにしたのだ。そうして必要なものを一通り揃えて、そろそろランチにしようかな? というところで向こうからツカツカとやってきたのは今朝、友人らしき存在と連れだって歩いていた少年。今は一人でなんだか薄汚れて、いつも以上に顰めっ面だ。
「お前、昼飯まだだろ? ちょっと付き合え」
「え、まだ食べてないけど……ちょっとどうしたの? つ、ツキノさーん!」
「ライダーさん、ちょうどいいところに。私はもう付き合い切れないので、その拗ね坊の面倒みてあげてくださいね。ではでは~」
 彼の優秀なオトモアイルーに助けを求めてみても、ドロンと人混みの中に消えてしまった。そんなオトモアイルーの存在など気にもせず、ハンターの少年はライダーの少女の腕と荷物をむんずと掴み取り、迷わず歩き出してしまったのだ。
 
 そうして入ってきたのがこの軽食店、案内されたのはテラス席。天気が良くてで暑すぎない今日にピッタリの席だ。そんな気持ちの良い天気とは裏腹にハンターの少年は運ばれてきたお冷を一気にあおり、開口一番アレである。
 ライダーの少女もチビリチビリとお冷を口にしながら昼食のメニューに悩む……ふりをして少年の顔を盗み見る。空いた手の人差し指は落ち着きなくテーブルをたたいている。何をそんなに怒っているのだろうか。メニューの方に視線を戻しても、初めて入る店で何を頼めば良いかなかなか決まらない。取り急ぎ、おすすめのランチセットを頼むと少年に向き直った。
「クエストがデートじゃないのは当たり前だと思うんだけど、いったいどうしたの?」
 怒りの内容に水を向けてみれば今度はむぐ、と少年は黙り込む。語ってよいのか悪いのか、逡巡したのち口を開いた。
「俺たちハンターはさ、ギルドからクエストを受注してモンスターを狩りに行ったりするわけだけど……。ほら、お前がやってるサブクエストとおんなじようなもんだよ」
 それならばわかる。自分たちライダーがこなすサブクエストにはハンターズギルドを経由して発注されるものも多い。うなずいて先を促す。
「えーっと、それで、お前たちライダーは大体ライダーかハンター一人と組んで行動するけど、俺たちは多いときは四人でクエストをこなすんだよ。それで俺と他に三人でクエストに行ってきたわけなんだけど」
(三人というと今朝の人たちか)
 歯切れの悪い説明が続くなかようやっと本題に近づいたかと思えば、少年は目をそらし頭をガシガシと掻き出した。
「やっぱ、やめよう。こんな愚痴みたいなこと言っても仕方ない」
「ちょ、ちょ、ちょっ! そんなところで止めないでよ! 気になるじゃん」
「あー、それで一人ハンターになったばっかりでまだ慣れてない子がいて」
(子!?)
「ほかの奴がその子が慣れるまでサポートするのに手伝う、っていうのについていったんだけど」
「必要以上にお膳立てしまくったり、それとなく良い雰囲気にしてくれとか。あげくに二人きりにしてくれ~とかなんだよ。俺はその子が今後、ちゃんとクエスト達成できるように手伝いに行ったんだぞ!!」
 ぽつりぽつりと語っていたのがだんだんとヒートアップして、ダンッと拳をテーブルに振り下ろす。
「えっと、話がちょっと見えないんだけど。手伝うって言ってたひとはカイル君のお友達で、その、ハンターなりたての子が女の子なのかな? その子にイイところ見せたくて張り切っちゃった……みたいな?」
「そう、それなんだよ! クエストなんだから、そんなことしてないで普通に仕事に集中しろよ!」
「難しいクエストだったの? そんな気をつかってたら失敗しちゃうような、それとも危ないの?」
「別に危なくもないし簡単な、初心者向けのクエストだよ」
「でもクエストってさ、簡単だから適当にやってもいいとかじゃないだろ。困っている人がいて、その人たちがギルドに依頼して。そこからギルドが精査してやっとクエストとしてハンターたちに依頼されるんだから。仕事を全うする責任があるだろ」
「フ、フーン」
 うなずく少女の額に汗がにじむ。
「おまけに終わったら終わったでそのまま遊びに行くから報告おまえらで済ましておいてって、クエストは報告するところまでクエストだろ! ていうか下心満載で仕事するんじゃねーよ!!」
「ソ、ソウダネ。シゴトニ、シュウチュウシナイトイケナイヨネ」
 タラリと鼻筋から汗が滑る。汗を拭うふりをして目の前の少年から視線を外した。
(あっぶなー! カイル君めちゃくちゃ真面目だもんね!! そりゃ仕事にそういった私情を挟むの嫌がるよね!!)
 
 実を言うとこのライダー、今朝このハンターの少年にサブクエストの手伝いをお願いしようと思っていたのである。夕方から夜にかけての時間にしか見つからない植物『月見草』の採取が目的のサブクエスト。はっきり言って簡単な内容だ。同じ内容の依頼だって何度もこなしている。しかし今回だけはいつもより求められる量が多かった。量が多いのはかまわない。オトモンに運ぶのを手伝ってもらえる分、ライダーという職業はハンターよりも融通が利く。問題は摘み取る作業だ。さすがにこれはオトモンの手は借りられないので、人の手を借りることにしたのだった。これだって別にハンターの少年でなくてもよい。一緒に旅をした竜人の少女だって手を貸してくれただろうし、師匠である女性ライダーだって楽しんで手伝ってくれたろう。いやしかし、険悪な状態から始まった関係だからこそ、ハンターの少年を誘おうと思ったのだ。簡単な作業だし、お喋りなどしながら和やかに依頼をこなして、もうちょっと仲良くなりたいな~? などと考えていたのである。
(でもさっきの話を聞いた感じからすると、カイルくんってそういう仕事に私情を挟むのだめみたい。誘う前に知れてよかった~)
 もう一度冷や汗を拭う。反対に少年の方は怒りの理由を吐き出せたためか落ち着いてきたようだった。ちょうどその頃注文していたランチが店員によって運ばれてくる。
 楽しくお喋りをしながら食事という雰囲気でもなく、二人は黙って各々食器を手に取って黙々と食べ始めた。
 
 ルルシオンの飲食店は何度か利用したことがある。食べてみると何でも美味しいが故郷のマハナ村とはずいぶんと雰囲気が違い、食べ慣れないものや使い慣れない食器も多い。なによりも食事の際に知らない作法があったりするのが緊張するのだ。少年の(思いのほか)美しい所作を見よう見まねして手と口を動かす。
(気まずい・・・・・・。ええい、ままよっ)
「カイルくんはさ今日クエストに行ってきた人たちのこと、嫌いなの?」
「別に。年の近いハンターは少ないし、一緒にクエスト行ったり情報交換するのは嫌いじゃないよ。あいつらが活躍してるとオレも頑張んなきゃなって思うし」
「普段は気のいい奴らだよ。今日みたいに浮ついた態度はごめんだけどな」
 褒めたところで最後は皮肉っぽくしめる。やっと普段の調子が戻ってきた。
「なんかいいなぁ、そういうの。お互いを高めあえるライバルっていうの? うちの村じゃ同年代のライダーっていないからなぁ」
「ライダーの村なのにか?」
「そうだよ。確かにライダーって村じゃ花形の職業だけど皆が皆、なりたいわけじゃないしね」
「へぇ、意外だな。なんかライダーの村って村人みんなライダーのイメージだった」
「カイルくん、私について村に来たとき雑貨屋さんとか普通に漁してる人たち見たでしょ。村の人皆ライダーだったら村の生活成り立たないよ」
「イメージだよ、イメージ。揚げ足とるなよ。あ、おまえが避けてるその葉っぱ食えるぞ」
「そうなの? 前に似たような野菜を食べようとしたら飾りだから食べるなって止められたことあるよ」
「一緒についてきてる肉があるだろ? それを巻いて食べるとうまいぞ」
 ほんとに? いぶかしみながらも言われたとおりに口に含んでみる。思ったよりも濃い味付けのお肉だが、その濃さが野菜で中和、いやお互いの素材の味が合わさって美味しい!
 視線でその美味しさをうったえると、うんうんと微笑みを返してくれる。それは今朝、彼の友人たちに向けられたものとよく似ていた。
(なんだか今、すっごく良い雰囲気じゃない!)
 
 真面目に仕事をしないのがカイルは嫌いなのであって、冒険についてきてくれるのは別にいやではないのだ。仕事は仕事で真面目にこなして手伝ってもらう。それとは別にこうやって食事をしたり、遊んだりして彼とは親交を深めていけば良い。そうして、それで、いつかは――――
「相棒! カイルと一緒にいるってことは今晩の手伝いの了解取れたんだな!! カイルありがとうな!!」
 ングッと肉が喉に詰まる。アイルー特有の高い運動能力で手すりに飛び乗ってきた存在、その声に驚いてむせる少女に少年は慌てて水を差しだす。まだ苦しそうな少女の背中をさすりながら、ライダーの少女の相棒を名乗る奇妙な姿のアイルーへ言葉を向ける。
「手伝いって何のことだよ。オレは何にも聞いてないぞ」
「ん? 相棒まだお願いしてなかったのか? って咳き込んで大丈夫か? その状態じゃ話しづらそうだしオレから説明するぞ。ほら、商業区のアイルーいるだろ? あいつが出してるサブクエストで月見草をとってこなくちゃいけないんだけど、今回は量が多くってさ。相棒とカイルに手伝ってもらおうかって話してたんだぜ! この依頼は簡単だからさのんびり月見草とりながら普段できない話とか語り合おうぜ~!」
(ナ、ナビル~~! その話はやめようと思っていたのに!!)
 不真面目な態度で仕事をするのでは彼に失望されてしまう! 慌てて弁解しようにもむせてしまって咳が止まらず、それどころではない。咳のせいとも後悔のせいともつかない涙を目に浮かべながらナビルーをにらみつける。どうかその先は言ってくれるなよ。
「それにさ、今晩は流星群が見られるらしいだよ。リリアに教えてもらったんだ。このサブクエスト、明日中に月見草を持ってきてくれればかまわないって言われてるんだ。取り終わったら皆で星を見ようぜ! 食べ物とか飲み物とか持ち寄ってさ! 特にドーナツとか!! 楽しいだろうな~」
(ナビル~~~~ッ!!)
 少女の思いは相棒には届かず、秘めていた計画を全部話されてしまった。仕事を最後まで全うせずに自分の楽しみを優先する。その態度は彼が先ほど怒っていた不真面目な態度のそれではないだろうか。せっかく今まで楽しく談笑していたのに、これでは逆に彼に嫌われてしまう。ただでさえ出会った時の状況から好感度がマイナスだったのが、ようやっとプラスに近づいてきたところだったのに。
 咳き込むのが落ち着いてきて残った水をぐいと飲み込む。おそるおそる少年の顔を見上げてみれば先ほどの良い笑顔とは打って変わってやはり微妙な、複雑な顔をしている。
「言い出すのが遅くなってごめん。いやでもさ、カイルくんが言うようにその、遊び半分で仕事するのは良くないよね。星見るのはやめて、真面目に月見草だけとってくるよ。じゃねっ!」
「え! ちょっと待ってくれ相棒! それどういうことだ!? ドーナツは!?」
 気まずい状況から逃げ出したくて会計へと急ぐ。が、むんずと腕を捕まれる。この軽食店にやってきたときと似たような状況だ。
「おまえは別に適当に仕事するような奴じゃないだろ。納品するのだって期日はしっかり守ってるんだし」
「悪い、オレがさっきあんな話したから言い出しにくかったんだよな」
 少年がウーッと天を仰ぐ。
「あ、あのさカイルくん! 今日の夕方から月見草取りに行くの付き合ってもらえないかな!? それに今晩って流星群が見られるらしいの! 取り終わったら皆で見ようよ!」
「って誘おうと思ってたんだよね」
「量が多いんじゃ、お前だけだとひっくり返すかも知れないからな。仕方ないから手伝ってやる」
「もー! 上から目線だなぁ」
「何だかよくわかんないけどカイルは参加決定だな!!」
 一度仕切り直してまた夕方に集合しようと一行はゾロゾロと移動し始める。
 ツキノもきっと来るだろうとか、リリアも誘ったところ仕事があって来られないし、ほかの村にまで誘いに行くにはちょっと時間が足りないだとか。それぞれどんな食べ物を持ち寄るだとか、レウスの力を借りれば見晴らしの良いところまでひとっ飛びだとか。たわいのない話に花を咲かせる。その様子は端から見ると、今朝少女が目にした少年とその友人たちとのやりとりと同じものだ。
 
 生まれ故郷のマハナ村に友達がいないわけじゃない。ナビルーやエナ、破滅の翼をめぐる冒険で出会った人々だって大事な仲間で大好きだ。その中でもライダーの少女にとって、この少年はちょっと違う。最初の出会いが最悪だった。向こうは自分に対して敵意をむき出しにしていたし、自分だってレウスを無理矢理連れて行こうとしていた彼が嫌いだった。でもその後に一緒に行動してみたら彼の事情だったり、最初はわからなかった優しさがわかったり、なんとなく彼と自分の似ている部分も見えてきて嫌いなままではいられなかった。
(このまま、ライバルみたいにお互いを高めあえて、友達みたいに仲良くなれたらいいな)
 
 ルルシオンで一番人が行き交う場所、広場までやってくるとライダーの少女のマイハウスは目の前だ。それじゃ、また後で。というところでここにいる三人(正確には二人と一匹)がよく見知った姿が目に入ってくる。
「おーい、リヴェルト! お前も今晩一緒に来ないかー? 皆でドーナツ食べながら星を見るんだぜ!」
 ナビルーの中ではもうドーナツ以外の食べ物は眼中にないようだった。そんな態度に笑いながらも後ろに並ぶライダーの少女とハンターの少年に視線を定めるとニヤリ、と含みのある笑みを浮かべた。
「デートの邪魔しちゃ悪いから、俺は遠慮しておくわ。お前ら楽しんでこいよ」
「だから! クエストはデートじゃねーからっ!!」
あとがき

コメディっぽい話が書きたかった。
あとゲーム中ではカイルくんたちは破滅レウスの騒動にかかりっきりだけど、ハンター側にはハンター側の交流があるだろうなぁって思ったので書いた。

2021年12月5日 pixiv投稿